Vol. 6

パン屋の仕事は甘くない。長野県東御市の「パンと日用品の店 わざわざ」が一緒に働きたい人物像とは【後編】

2016年12月4日、今年で3回目となる「パンと日用品の店 わざわざ」のトークイベントが、新潟県燕市ツバメコーヒーで開催されました。
(この記事は後編です。前編はこちらからご覧ください。)

お話いただいたのは、わざわざの店長、平田はる香さんです。

2009年に長野県東御市(とうみし)の山の上にオープンしたわざわざ。国産小麦や自家製酵母を用い、窯で焼き上げたパンが評判を呼び、今や全国からファンが訪れるほどの人気のお店です。
最近では、お店の働き方についての投稿が、Facebookやインスタグラムで1日1000以上のいいねがつくなど、その働き方に注目が集まっています。

イベント進行役は、会場でもあるツバメコーヒーの店長、田中さん。
後編は、わざわざの平田さんが考えぬいた、新しいスタッフ採用のお話から始まります。

わざわざの採用条件は、本の感想文を書くこと

わざわざ 平田さん 今年10月ぐらいから意識的に、SNSの投稿をお店の働き方について書くようにしたんです。その意図は、来年度に新規の募集をかける予定なので、投稿を見てくれた人が就職したいと思ってもらえるように始めました。
それが予想以上に反響が大きくて、毎回Facebookやインスタグラムで、1000以上のいいねがついたり、シェア数も30〜50とかいくようになりました。
それなら、もっとじっくり読んでもらえるように、冊子にしようと思ったんです。

要するに、本をお店の採用条件にしようと考えたんです。明確に労働条件や、どんな1日を過ごすかを書いて、その本を読んで、なおかつ働きたいと思ったら、そう思った時点でわりとお店にマッチしているわけですよね。しかもその本は1000円ぐらいで買ってもらおうと思っています。ちょっと応募してみようかなっていう興味本位の人は、お金を出して買わないですよね。

ツバメコーヒー 田中さん 本があっても、人間性を知るには面接のような形が必要になりますよね?

わざわざ 平田さん そうですね。だから書類選考に通ったら、面接と本の感想文を書いてもらうんです。本をしっかり読んでこないと絶対に受からないわけですよね。それで受かったら、面接をして、1日仕事体験を入れて、合否の連絡をする、という流れを考えています。

ツバメコーヒー 田中さん 今までのいいとこ取りですね?

わざわざ 平田さん そうですね。ただ私は面接をしません。他のスタッフはしていいと思うんですけど、私は面接不適合者なんです。面接をしても全然、人間がわからないから(笑)。

ツバメコーヒー 田中さん 人間を見抜けない?

わざわざ 平田さん 見抜けない。見抜けます?

ツバメコーヒー 田中さん 見抜けないです。でもうちの店は私ひとりですし。求人を出したとしても、たくさん応募が来るエリアでもないので、もし応募があったら基本OKを出してしまう気がします。だから、わざわざさんのようなステージにはまだ全然登れてないですね。綿密な面接っていうのはやったこともないし、できる自信もないですね。

わざわざ 平田さん 田中さん、面接官に向くんじゃないかな? 冷たいから。

ツバメコーヒー 田中さん 冷たい(笑)?

ツバメコーヒー 田中さん 会場の温まりとともに、冷たい発言が向けられた感じですね。熱すぎるお湯に差し湯するような感じでね(笑)。私、冷たいですかね?

わざわざ 平田さん 私よりクールだと思いますよ。わりと冷静だし、それにすぐ人のことを好きになったりしないですよね?

ツバメコーヒー 田中さん そうかもしれませんねぇ。

わざわざ 平田さん 私、ほんとダメなんですよね。すぐ人を好きになっちゃう。

ツバメコーヒー 田中さん 良いところを見つけるのが天才ってことですか?

わざわざ 平田さん いや、バカなんですかね? 冷静に人を見れないんですよね。とくに面接っていう舞台では見抜けないです。わからないんです。

ツバメコーヒー 田中さん なるほどねぇ。たぶん今、会場の全員が、私が冷たいっていう印象で終わりましたけど(笑)。

わざわざ 平田さん ははは(笑)。

「お金はいらないから働かせてくれ」は、ただの言い訳

ツバメコーヒー 田中さん 「報酬が低くても働きますよ」って言う人もいますか?

わざわざ 平田さん たまにいますけど、はっきり言ってうちには合わないです。お金はいらないですって言う人は、実はモチベーションが低いですよね。お金がいらないと言うことで、何かの言い訳にしていると思うんですよ。
お金をもらっていないから、仕事もこのぐらいでいいかって妥協しますよね。それよりも、「私、もっと稼げるんで、給料上げてください」とか、「年収300万欲しいです、その代わりパンを1年で1000万売ります」って言ってくれた方がいいです。
そういうモチベーションの人と働きたいです。お金がいらないなんて言う人は、絶対にお金を生まない。ただ、お金がそんなに大事なのかと問われると、もちろんお金ばっかりじゃないですよ? だけど生きていく上でお金がかからない状況ってないですよね。やっぱり、なんだかんだお金は好きですよね、田中さん?

ツバメコーヒー 田中さん そうですね、好きですよ(笑)。なんか、冷たい人間とか、お金が好きとか、私のイメージもうなぎ登りな感じですね(笑)。

会場 笑いが起こる

わざわざ 平田さん 今日、製作途中の本を持ってきたんですけど、実際にはフルカラーで出る予定です。このサイズで、眺めても楽しい、読んでも楽しい、持ちたくなるような本っていうコンセプトで作っています。

ツバメコーヒー 田中さん 来年以降に発売される?

わざわざ 平田さん 来年2017年の1月には出版したいと思っています。本もパンみたいに自分たちで作ろうと思って、“わざわざパブリッシング”として初めての出版です。フルカラーで写真集並みの画質で、最高級の紙を使っても、900円ぐらいで出せるんです。もし出版社に持っていったら、1800円から2000円ぐらいの値段になっちゃうので。できるだけ安く、たくさんの人に届けたいですね。

ツバメコーヒー 田中さん 本来であれば求人のために何かを準備することなく、1度でもお店で良いサービスを受けて、そのサービスを提供するお店に対してすごいなと思い、お店側の人間になりたいと思う、それが極めて理想的な流れだと思うんですけどね。

わざわざ 平田さん 本来はそれがいいですけど、そうじゃないことが往々にしてありますよね。“おしゃれな空間で働いてみたい”とか、“山の上にポツンとあるからのんびりしてそう”とか、そういったイメージを持った人が応募してくることもあるんです。実際はそんなに緩くないということを理解してもらいたくて。結構厳しいんだよって。

働き方に自由があるほど、厳しいルールがある

ツバメコーヒー 田中さん 本を作っても、ある人を排除するような、そういう言葉がないとダメですよね? 本を読んで、俺はこの店は違うな、って思わせてくれるようなところが、本の中にあるといいのかなって思いますけど。

わざわざ 平田さん そうですね。それで言うと今、わざわざはアルバイトがフリー出勤制なんですよ。正社員ほどの待遇はないけど、自由はある。先日、そういった勤務制度を取り入れたことを、WebサイトやSNSに投稿したんです。
そうしたら、「私は子連れで働けないけど、こういう自由な職場なら働けそう」とか、「持病があって働きに行けないけど、ここなら働けそう」とか、そういったコメントが多く寄せられたんです。反応があったことは嬉しかったんですけど、それは違うぞと感じました。

だって、持病がある人が、健康的に1日中この体力仕事をできるかって言ったら、できないですよね? 25キロの小麦粉袋を、倉庫から運んできてくださいって言われて、「はい」って言えない人は、パン屋で働けないですよね。自由があるってことは、ルールが明確なんです。むしろ厳しいルールがある。
会社などの集団で自由が多いということは、ルールのレベルが高い。そういうルールを守れる人しか働けないということを、本に書いています。働く上での心構えや、年収のモデルケースも載っています。
それを読んだ人が、こんなにもらえるなら働きたいと思って応募してきたら、たぶん落ちますね。田中さんの言葉で言えば、そういった人を“はじく”ことができる。

ツバメコーヒー 田中さん 私、“はじく”とは言ってないですけど(笑)。まぁいいです、はじくことができるわけですよね。パチンコ玉のようにね、パーンと。

会場 笑いが起こる

ツバメコーヒー 田中さん アルバイトは責任がなくて、自由で報酬が少ないイメージがありますけど、実際はそうじゃないですよね。かといって、社員は給料が高く、拘束される、というわけでもない。アルバイトでも自給がすごく高い人がいてもいいわけですよね。

わざわざ 平田さん そうなんです。厳しいルールを守れる人だからこそ、自由が与えられる。そういう人にこそ働きにきてほしいと思いますね。

ツバメコーヒー 田中さん 来年はいい人が働きにきてくれるといいですね。そして私も、もっと温かいトークができるように、来年までトレーニングをしてまた戻ってきたいと思います。

わざわざ 平田さん はい(笑)。どうもありがとうございました。

トークイベントに参加して

毎日更新される、わざわざのFacebookを見ていると、店長の平田さんが仕事に対して熱い方であることはだれもが想像できるのではないでしょうか。
実際にイベントに参加して、目の前でお話を聞いていると、想像以上に厳しい目線でお店のことを考えていらっしゃるのがわかりました。

仕事においては、何をするかよりも、だれと働くか、ということがとても大切だと感じます。同じ方向を向いている仲間がいるからこそ、いいものが生み出せる。本が出版されたら、ぜひ手にとってみたいと思います。

『パン屋の仕事は甘くない。長野県東御市の「パンと日用品の店 わざわざ」が一緒に働きたい人物像とは』の前編はこちらからご覧ください。

暮らしミタ人

平田はる香さん

平田はる香さん

「パンと日用品の店 わざわざ」は、山の上に店があることから、通りすがりで来る事はまずあり得ません。
「わざわざ来る価値のあるお店」であることを常に意識し、来ていただいたお客様に感謝の気持ちを忘れず、来て良かったと言われる店づくりを心がけています。
http://waza2.com/

Writer

五十川 ルリ子
この記事を書いた人
五十川 ルリ子

新潟県在住。食べることやカフェめぐりが大好き。自ら足を運んで惚れ込んだお店や、魅力ある人へ取材をしています。

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