Vol. 7

長野へ移住した新米ママの子育て。「この子が選んだ場所についていきたい」

長野県信濃町にある黒姫高原。
黒姫山を望む高原では、春から秋にかけて菜の花やアジサイ、コスモスといった、色とりどりの花が一面に咲きほこります。

また、冬にはスキー場がオープンし、子どもから大人までウインタースポーツを楽しむ人たちで賑わう、四季折々の自然豊かな場所です。

そんな自然あふれる場所に、2015年、東京から移住されたご夫婦がいらっしゃいます。
長野のなかでもとくに雪深いこの街に、どうしてやってきたのでしょうか。

移住された経緯や、生後8ヶ月のお子さんの子育てについて、中條早百合(なかじょうさゆり)さんにお話をうかがいました。

朝6時から午後3時まで働いて、夜は保育の学校に通っていた

ー 長野に来るまでは、東京に住んでいたとお聞きしましたが。

早百合さん はい。出身は沖縄ですが、東京に憧れて18歳で上京しました。上京してすぐに正社員として働いて、トータルで7年ぐらい東京にいましたね。

ー どのようなお仕事をされていたのですか?

早百合さん 障害児施設です。正確には、“重症心身障害児施設”というんですけど。重い障害を持っていて、生涯をその施設で過ごすような患者さんが暮らしています。

ー どうして施設で働こうと?

早百合さん 母の友人がそこで働いていたので、紹介してもらったんです。もともと子どもが好きで福祉にも興味があったし、東京に憧れていたので行ってみようと思って。でも実際に働いてみたら、60〜70歳ぐらいのお年寄りの人が多かったですね。たまに赤ちゃんもいるんですけど。

ー 最初から大変なお仕事をされていたんですね。忍耐強くないと続けられないですよね?

早百合さん そうなんです、今思えば大変でした(笑)。2年後に保育の学校にも通い始めたら、さらに大変で。朝6時から午後3時まで施設で働いて、午後6時から9時までは夜間学校に通っていました。でもここまできたら、保育士の資格を取るまでやるしかないと思って必死に通っていましたね。

寒いところに憧れて長野にやってきた

ー 沖縄出身ということですが、本島ですか?

早百合さん 石垣島なんです。そのころから、ずっと寒いところに憧れていました。

ー 寒いところに憧れるなんて初めて聞きました(笑)。

早百合さん 私が長野に住むって言ったら、石垣島の両親は「寒いところには行きたくない」って言っていましたね(笑)。私は東京にいたころからスノーボードが好きで、旦那とふたりで、新潟の池ノ平や、杉の原、苗場のスキー場とか、山形や群馬にも行ったことがあります。それがこの家に来てから、歩いて3分でスキー場に行けるんですよ。

ー 移住したことで、趣味のスノーボードがいつでもできるようになったわけですね。最後に滑ったのはいつぐらいですか?

早百合さん 2年前かな?

ー ということは、長野に移住してからは滑っていない……?

早百合さん 逆に滑ってないですね、はははは(笑)。旦那は私に構わず、ひとりでよく滑っているんですけどね。

両親がそばにいなくても、不安は感じない

ー 旦那さんのご両親は東京にいらっしゃるということですが、頼れる存在がそばにいないことに不安は感じませんか?

早百合さん あまり感じていないですね。でも旦那の両親は、孫のためならすぐに来てくれるんですよ(笑)。

ー そうなんですか? とはいっても、東京から長野だと多少時間がかかるし、お子さんを気軽に預けられなくて困りますよね。

早百合さん 預けたいと思ったことがまだないんですよね(笑)。強いて言えば大好きなスノーボードをしたいので、そのときは預けられたらいいですよね。今この子は8ヶ月なんですけど、近くのスキー場の託児所は、10ヶ月以上になれば預けられるんですよ。

ー スキー場にも託児所があるんですね。お子さんが生まれるまで、長野ではどのようなお仕事をされていたんですか?

早百合さん ホテルのウェイトレスや、お腹が大きかったときは、スキー場の売店で座りながらできる仕事をしていました。

ー 保育士のお仕事は?

早百合さん 資格は持っていますが、保育士の仕事に就いたことがないんです(笑)。

ー 資格を持っているのに、保育士をしたことがない……?

早百合さん そうなんです(笑)。資格は取ったけど、保育実習で保育士は無理だなって思っちゃって。保育の仕事は書き物が多いんですよね。日案といわれる、1日の計画を立てて、毎日子どもひとりひとりのお便りを書くほかに、実習生が来たら書類を毎日チェックしないといけない。それを知ってから気が引けてしまって……。今思えばやっておいてもよかったとは思うんですけど。

ー でもそれが今、子育てには活かされてきますよね?

早百合さん そうですね。子どもが生まれてから、たまに学校で使った教科書を見返しています。まだ27歳だから、これから保育士の仕事に就けたらいいなぁとは思っているんですけど。

ー まだいけますよ!

早百合さん でも私、車の免許を持っていないんです(笑)。託児所つきの教習所が家の近くにあるので、今年の春には通いたいですね。ついでに遊びにも行きたいなぁ(笑)。

車の免許を持っていなくても、まわりの人が助けてくれた

ー 長野へ移住してから、よく2年間、車の免許がない状態でやってこられましたね(笑)。

早百合さん ひとりで出かけてたら吹雪になって、駅から帰れなくなっちゃったり、バスが終わっちゃったりして、タクシーで帰ったこともあります(笑)。

ー それは大変。普段は主にバスを活用されているんですか?

早百合さん バスにも乗りますが、最近はママ友が家まで送ってくれるんです。

ー 優しいママ友がいらっしゃるんですね。ママ友とは、どこで出会えるんですか?

早百合さん 子育て支援ルームの「木育ルームなかよし」という施設です。施設は無料で利用できて、子どもが遊べる遊具や絵本が置いてあったり、週に1回、助産婦さんに相談もできたりして、ママ友との出会いの場になっているんですよ(笑)。

ー 素敵な施設ですね。まわりのママ友は車の免許がないと知ったら、驚かれませんか?

早百合さん 驚かれますね。今まで東京にいたから車は必要なかったし、未来のことなんて少しも考えてなかったなぁ(笑)。子どもが生まれる前はよく自転車に乗っていたんですけど。さすがにこの辺りは坂道も多いし、子どもを乗せて自転車は厳しいですよね。

ー 車で行動する人が多いから、自転車に乗っている人はめったに見かけないですよね?

早百合さん いないですよね(笑)。

ー もしお子さんが急に高熱を出したらどうしますか?

早百合さん タクシーで病院に行くか、旦那を呼ぶと思います。

ー お仕事中でも旦那さんを呼ぶ?

早百合さん 呼びます。すぐそこのホテルで、支配人として働いているので(笑)。

ー すぐそこの?

早百合さん 家の目の前のホテルです。だから、「来てー!」って電話すればすぐに来てくれます。

ー それだけ近くで働いているなら、安心して子育てができますね。

早百合さん そうですね。もし旦那が遠い場所に働いていたら、タクシーを呼ぶか、隣の家の人に助けを呼びますね(笑)。たまに本当に困ったときは、隣の家の人が助けてくれるんですよ。帰りのバスがなくなって、駅でポツンって取り残されたときに電話したら、迎えに来てくれたんです(笑)。

ー 隣の家の人がそんなに親切だなんて、最初はわからなかったですよね?

早百合さん わからなかったです。このあいだは、旦那がインフルエンザになったんですけど、隣の家の人が晩御飯を持ってきてくれたんですよ。

ー 旦那さんがインフルエンザにかかったことを、隣の家の人に話したんですか?

早百合さん ううん、話してない。

ー それじゃぁどうして……?

早百合さん 家の前の雪道に足跡がないから、「出勤してないんじゃない? もしかして寝込んでない?」って心配してくれて。子どもが生まれてからはよく心配してくれます。東京では隣の家の人にご飯を作ってもらうこともないだろうし、そう考えると幸せですよね。

先のことはなにも考えてない。裏庭で遊んでいればいいよね(笑)

ー この辺りはお子さんの習い事教室なんかは少ないですよね。

早百合さん ママ友は、長野市の幼児教室に参加していると聞きました。ここから車で30分くらいの場所ですね。

ー それこそ免許が必要ですね(笑)。

早百合さん 必要(笑)。どうせ送り迎えをするなら、私が昔やっていた剣道を一緒にできたらいいなぁ。

ー そこまでお子さんの教育の心配はしていないんですね。

早百合さん どうしよう、何も考えてない(笑)。

ー 都市部に住んでいる人は、選択肢がいっぱいあるから、どんな学校へ行かせるか、どんな習い事をさせるかで、悩んでいたりこだわったりすることが多い気がするんですよ。

早百合さん そうかもしれないですね。でもこの子は裏庭で木登りでもして遊んでいればいいよね(笑)。ただ健やかに育ってくれれば、それだけで充分ですよ。

新しい出会いが楽しみだったから、移住は寂しくなかった

ー 今まで東京で暮らしていたのに、急に長野に来て寂しくはなかったですか?

早百合さん うん、全然。

ー 旦那さんさえいれば平気?

早百合さん それも全然(笑)。ひとりでも移住していましたね。新しい場所で、新しい出会いがあったらいいなって思っていたので。

ー 前向きですね〜。

早百合さん 前向きですね(笑)。寂しくなってだれかに電話したこともないし、ひとりでいるのが好きなんですよ。この子がただ元気でいてくれれば、それでいい。

ー この先も長野に住み続けますか?

早百合さん この子が中学を卒業するまでは長野にいようと思っています。

ー そこからは?

早百合さん どうする?(我が子に問いかける)

この子についていきますね。この子が選んだ場所が面白くなかったら、私たちは別のところに行きます(笑)。沖縄、東京、長野。どこでもいいけど、私はスノーボードがしたいから、雪があるところを選んでくれたらいいなぁ〜。

取材を終えて

子育てに関するニュースといえば、保育園の待機児童問題が記憶に新しいのではないでしょうか。子どもを産めば当然、我慢や苦労が伴うのだろうと、マイナスなイメージがありました。

それでも早百合さんに話を聞いていると、「深く考えなくても、なるようになるよ」と、笑って答えてくれるのです。彼女は駆け出しのママではありますが、子育てについて語る表情は幸せに包まれていて、ママになるのも悪くないかも、そう思わせてくれました。

暮らしミタ人

中條早百合さん

中條早百合さん

1989年、沖縄県石垣島生まれ。 18歳で上京し、重症心身障害児者施設で働きながら、秋草学園短期大学で保育士の資格を取得した。 施設で出会った夫と2015年長野へ移住し、現在は長男の子育てに奮闘している。

Writer

五十川 ルリ子
この記事を書いた人
五十川 ルリ子

新潟県在住。食べることやカフェめぐりが大好き。自ら足を運んで惚れ込んだお店や、魅力ある人へ取材をしています。

PAGE TOP