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「生きるために必要なものは、自分の人間関係から獲得する」新潟県の限界集落で暮らす、神崎淑さんの生き方

こんにちは、五十川ルリ子(@ruricocoa)です。
東京から新潟に移住して早2年。ライターとしてあらゆるメディアで新潟を取り上げていくうちに、自分でも驚くほど新潟への愛着が湧いているのを感じています。

新潟は米の収穫量が全国1位の米どころ。移住するまで田植えの経験すらなかった私は、新潟県上越市の小さな集落・中ノ俣(なかのまた)で、米づくりを体験することにしました。

毎度驚かされるのが、高台から望むこのすばらしい景色。
ウグイスやカエル、そして草刈り機の音だけが響き渡る。そんな自然のなかで過ごしていると、今までの価値観がとてもちっぽけに思えてくるんです。

東京で毎月得ていた給料は、洋服や趣味の旅行、外食費に消えていく。どんなに消費しても、欲しいものは次から次へと尽きなくて、心はいつも満たされないまま。私の心を満たしてくれるものは、きっとそこにはないー。

そんな思いを抱く私に、いつも笑顔で迎えてくれるのが、33歳の神崎淑(かんざき きよし)さん。
話を聞くと、中ノ俣の住民は現在たったの65人。そのほとんどが70歳以上のいわゆる限界集落なのだそう。

最寄りのスーパーに行くにも車で30分かかる、決して便利とはいえない場所。それでも神崎さんが中ノ俣で暮らす理由に、私が探している”幸せ”が隠されているのかもしれない。そう思い、お話をうかがうことにしました。

子どもたちに、自然のある暮らしの良さを伝えたい

ー 神崎さんは、主にどんなお仕事をされているんですか?

神崎さん 私が所属しているNPO法人「かみえちご山里ファン倶楽部」で、棚田の保全や、廃校を活用した環境学校の運営を任されています。
環境学校では、地元の小中学生を対象にした自然体験を行っていて、毎年約80団体※1から子どもたちを受け入れているんですよ。
※1…小中学校、その他団体を含めた統計

ー 子どもたちは具体的にどんな自然体験ができるんですか?

神崎さん 夏は川遊びで生き物をつかまえたり、冬はかんじきを作って雪の上を歩いたり。あとは地域のおばあちゃんやおじいちゃんたちに先生をお願いして、地元食材を使った郷土料理を教えることもありますね。

神崎さん 子どもたちのプログラムを考え出すと、際限がないんですよね。去年と同じことなら簡単にできちゃうけど、少しでも良い体験をしてもらいたくて、毎年新しいことを付け加えたくなるんです。私が忙しい原因は、それかもしれませんね(笑)。

ー それはなにより神崎さん自身が楽しんでいる証拠ですね!

神崎さん そうですね。子どもたちには、地域の人の技や知恵に触れて、昔から続いている里山の良さを感じ取ってほしいんです。子どもたちが大人になったとき、どんな職業があるかは検討もつかないですけど、自然のある暮らしを大切に考えるような職業に就いてくれたらと思っています。

NHKのクローズアップ現代を見て、団体の活動に惹かれた

ー ご出身は長崎なんですよね?

神崎さん はい。高校を卒業してから関西の大学に行ったんですけど、アルバイトばかりしていて途中で辞めてしまって。さすがにこのままではいけないなぁと思って、地域づくりや環境教育を学ぶ東京の専門学校に通いました。

— どうして地域づくりを学ぼうと?

神崎さん 私が育ったのは昔漁業で栄えていた港町で、だんだんと昔の暮らしをする人が減っていたんですよね。気づいたらベットタウンみたいに開発が進んでいて、自分の好きだった“ふるさと”じゃなくなっていくのが嫌だったというか……。

昔の形のまま地域が発展していくにはどうしたらいいかなと思って、専門学校に入学したんです。

— 地元の変化に葛藤を感じていたんですね。それから新潟の中ノ俣に来ることになった、きっかけは?

神崎さん 専門学校の2年目に、インターン制度を利用した職業体験をすることになっていたんです。どこに行こうかと考えていたら、たまたまNHKの「クローズアップ現代」で団体の活動が取り上げられていて。テレビを見てすぐに、ここに行ってみたいなと思ったんです。

— テレビでは団体の活動をどのように紹介していたんですか?

神崎さん 全国各地にある過疎地域のなかでも、施設整備などのハード面だけではなく、若い人を導入した地域活性化にいち早く取り組んでいたんです。もしかしたら、私が感じていた地元の課題を解決する手がかりになるんじゃないかと思いました。

— 若い頃からそんな課題を持っていたなんて、本当に地元が好きだったんですね。インターンを経験してから、団体で働く決心はいつごろされたんですか?

神崎さん テレビを見たときにはもう、自分の中で決まっていたような気がします。実際にインターンや夏休みのボランティアで働いてみても、テレビを見て感じていたものと大きくズレがなかったので、ここで働くんだろうなと気持ちが固まっていきましたね。

田舎でも暮らしていける、社会の仕組みを作りたい

— 小さな集落だと、人間関係が密接で面倒なことはありませんか?

神崎さん ありますね。寝るのが遅いと「昨日は夜遅くまで電気がついていたよね?」とか、街に出かけていると「彼女ができたのか?」とかよく話しかけられます(笑)。

時々とんでもない噂になっていて、「とうもろこし畑で彼女と歩いていた」と言われたこともありました(笑)。そもそも、とうもろこし畑に行っていないし、彼女もいないし……。今では何を言われても気にしないようになりましたね。

— 行ってもないのに、そんな面白い噂が(笑)。中ノ俣で暮らすようになって、都会の暮らしに対する見方は変わりましたか?

神崎さん う〜ん、もともと内向的な性格なので、人が多くてうるさいところが好きじゃないんですよね。それに田舎暮らしの方が全然充実してるけど?って思いますね。

たしかに都会や街に住めば、コンビニや飲食店があって便利ですけど、自分で育てた野菜を使って料理をする方が、よっぽど豊かな暮らしだと思うんですよ。料理の時間はかかりますけど、その時間さえも豊かですよね。

— たしかにお金があればなんでも手に入りますが、自分で生み出すのも楽しいですよね。

神崎さん そうですね。私のような考えの人は増えてきていると思うんですけど、そういう人たちが「不本意ながらも都会で生きている」ということがないように、田舎でも生き生きと暮らせる社会を作りたいと思っているんです。

そのためにも私が、ライフスタイルの見本になるようにがんばらなきゃと思っているんですけど。

— 神崎さんを目標にしてもらえるように?

神崎さん 無理ですけどね(笑)。少しでも、そうなれたらいいなと。

お金は生きていくことに何ら関係のないこと

— 地方は賃金が安いなどの課題もありますが、もっとお金を稼ぎたいと思うことはありますか?

神崎さん ありますよ。でも、家族を養えるぐらいの必要最小限でいいんじゃないかなと思っていて。お金を稼ぐよりも、自分でお米を収穫できるとか、野菜を作れるとか、そういった技術を身に付けたいんです。

お金がないと暮らしてはいけないけど、お金でしか買えないものって、根本的に生きていくことには何ら関係のないことですよね? あれば豊かな生活にはなるけど、学校に通うため、本を買うため。だけど学校に通わなくても、本を買わなくても困らないし、死ぬわけじゃない。

今の人たちは生きていくために必要なものを、お金を稼いで誰かから買っているわけですよね。それは人任せのような気がするんです。
私は生きていくために必要なものを、自分の人間関係から獲得していきたいです。

— かっこいいですね〜!

神崎さん いえ、私はかっこよくないです(笑)。お金よりも生きる上で必要な、総合的な力を身に付けたいです。

— 信頼関係があれば、まわりから助けてもらえる、ということですよね。いつからそんな風に考えるようになったんですか?

神崎さん 中ノ俣に来てからですね。集落の人たちは、食べるものは自分で作って、手に入らないものは自分の関係性で手に入れているんです。
そうなるためには、他の人が困っているときに助ける力がなければならない。そういう生き方ができたら格好いいですよね、それに憧れている部分があります。

— そういった考えは、都会や街で暮らす人たちに理解されないことはありませんか?

神崎さん 初対面でここまで話すことはないので、どれくらいの人に理解が得られるかわからないですけど、こういう価値観もあるよってお伝えするのが私の役目だと思うんです。みんなが変わってくれなくてもいいけど、こういった暮らし方があるんだよってことをまずは知ってほしいですね。

「成し遂げなければならない」から「ここで成し遂げたい」へ

— もともとは地元の長崎をどうにかしたい、という動機でしたが、地元に戻る予定はありますか?

神崎さん う〜ん。団体の人には「ここで何事も成していないのに、どこかで何かを成せるわけがない」と言われていたので、そう自分に言い聞かせてきたんですけど。今は成し遂げていないから戻らない、というわけでもないんですよね。

— どういうことですか?

神崎さん 言葉にしちゃうと誰かに聞いたような言葉になっちゃうんですけど、ここにも愛着があるというか、ここも好きだし……。

神崎さん 「成し遂げなければいけない」ではなくて、「ここで成し遂げたい」という気持ちになってきたんですよね。地元に戻りたい気持ちもあるけど、両方を天秤にかけたときに、中ノ俣で何かをしたいという気持ちの方が大きいというか。複雑な気持ちなので、あまり聞かないでほしいですね(笑)。

— すいません(笑)。神崎さんにとってそれだけ中ノ俣が大切な存在になっているんですね。

神崎さん そうなんですよね。

— これから中ノ俣はどうしていきたいですか?

神崎さん 団体の取り組みとしては、集落に住む人を増やすために、地域のなかに雇用の場を作りたいと思っているんです。そのためにも、私たちがまず商売を成り立たせたいですね。

今は市の委託費などに頼りながら活動していますが、自分たちで財源を確保するために、お米を売ったり、古民家カフェを営業したりしています。私たちの活動に興味をもってくれる人が少しでも増えたら嬉しいです。

取材を終えて

お金で手に入れる幸せは、そう長くは続かない一過性のもの。
神崎さんを取材して見えた本当の幸せは、子どもたちや地域の未来を想い、自分の力を尽くすことだと感じました。

全国の地方自治体では、外から移住や定住をしてもらおうと、支援制度を手厚くすることに力を注いでいます。
けれど今、地域のために奮闘する彼らにこそ、目を向け支援をしていくべきではないでしょうか。

暮らしミタ人

神崎淑さん

神崎淑さん

1984年長崎県生まれ。東京環境工科専門学校を卒業後、2009年より新潟県上越市のNPO法人「かみえちご山里ファンクラブ」で活動。現在彼女募集中とのこと。

Writer

五十川 ルリ子
この記事を書いた人
五十川 ルリ子

新潟県在住。食べることやカフェめぐりが大好き。自ら足を運んで惚れ込んだお店や、魅力ある人へ取材をしています。

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