歯医者なのにスイーツ好き? 長野県のインスタグラマー@hahahaishyaさんの素顔に迫る
こちらのインスタグラム、どんな人が投稿していると思いますか?
バニラアイスにチョコレートソースがかかったボリューム満点のパンケーキ、温野菜が添えられたふわっふわのオムレツ。食べもの自体がおいしそうに見えるのはもちろん、写真の美しさも目を引きます。
毎日投稿されている様子から、スマホに慣れている若い人、甘党のカフェ好き女子、といったところでしょうか。
なんと正解は、長野県在住の笠井宏二(かさいこうじ)さん。写真を見ての通り男性で、本職は歯医者さんです。
笠井さんのインスタグラム @hahahaishya の投稿数は、2017年5月現在で約1,900件。フォロワー数は約5,400人です。いわゆる人気のインスタグラマーに比べれば、フォロワー数は決して多いとは言えませんが、普通の人が簡単に到達できる数字でもありません。
インスタグラムは、日常のひとコマを写真に撮って、気軽に共有できる人気の写真投稿サービス。2016年、世界のユーザー数は6億人、国内では1,000万人を突破したことからも、人気の高さをうかがい知ることができます。(参考:ニールセン調べ)
そんなインスタグラムを、笠井さんは普段どのようにして生活に取り入れているのでしょうか? 使用しているカメラ、撮影テクニックからプライベートのお話まで、あらゆる疑問に迫りました。
はじめは歯科情報を発信する、歯科ブログだった
ー インスタグラムには、いつから写真をアップするようになったんですか?
笠井さん いつから始めたか思い出せないぐらい、かなり昔ですね。
はじめは、自分の歯科医院の情報発信が目的でブログを書いていました。
歯のためには、こんな予防や、こんな治療をした方がいいよ! と、役に立ちそうな情報を考えて書いていたんですけど。気づいたら書くネタもなくなってきたし、だれも見てくれないし、歯科情報はやめちゃったんです。
※後日調べると、ブログは2008年4月から投稿されていました。

ー それからブログには、食べもの屋さんの情報を?
笠井さん 食べに行ったお店の記録を書いている、ただの日記ですね。いつも更新していると、次はどこのお店に行こうかって考えるようになって。新しいところに行くうちに、更新頻度も増えてきちゃいました。
ー インスタグラムは毎日更新されている様子ですが、毎日カフェに行っているんですか?
笠井さん いや、毎日外食してるわけじゃないですよ。あとから写真を見て振り返って、暇な時間に投稿しています。すごくおいしかったときは、早めにアップするかもしれないけど。

ー てっきり毎日外食しているのかと思っていました(笑)。外食の頻度は週にどれくらいですか?
笠井さん 休みの日には、大体どこかへひとりで食べに行きますね。お昼が週3回、カフェも週3回ぐらい。
ー 長野県内を中心に、数々のお店に行かれていますよね。
笠井さん そうですね、ただ徐々に感覚が麻痺してくるんですよ。昔はちょっとしたパフェでも、見た目だけでいいなと思えていたけど、今ではそんじょそこらのパフェじゃ感動が味わえないんですよ。
もっといいのが見たい、もっとおいしいのが食べたいっていう欲求が高まってきて、普通のものでは満足できなくなっているのが残念ですね。
ー カフェ好きからすると、羨ましい悩みです(笑)。写真はケーキやパフェが多いですが、それだけ甘いものがお好きなんですね?
笠井さん 甘いものは子どものころから好きですね。食後は甘いものを食べないと、ご飯を食べた後のシメにならなくて。
ー 食後には必ず甘いものなんですね。じゃぁ女性客ばかりのお店でも、臆することなく入れますか?
笠井さん 入れますね。男性が自分だけでも全く気にならない。
ー なかにはおいしくないお店もあると思うんですが。
笠井さん おいしくないとは書いていないです。ただ、おいしいとも書いていないかな(笑)。飲食店は味だけじゃなくて雰囲気も味のひとつだから。
料理はおいしいけど、雰囲気はイマイチっていうお店もあるし、なかなか評価するのが難しくてね。雰囲気には目をつぶりながら、味だけ楽しむこともあるし(笑)。
ー どこか残念なお店というのは、たまにありますよね。たくさん甘いものを食べていても、虫歯にはならないですか?
笠井さん 砂糖の摂取量を減らせば虫歯の量は減るっていう論文もあるけど、絶対食べちゃいけないってわけじゃない。
砂糖だけが虫歯の原因ってわけじゃないし、人それぞれの歯の性質によるので、虫歯になりやすい環境かどうかも影響しているんです、ってあんまり話すと、専門学校の講義みたいになっちゃうのでやめておきます(笑)。
インスタグラムでいいねが伸びるポイントとは?

ー 笠井さんの投稿は、ハッシュタグがかなり丁寧につけられていますよね。量も多いし、コピペですか?
笠井さん 全部、手入力ですよ。ときどき打ち間違いもあるけど、食べた場所の地名は入れるようにしてますね。あとはその写真から連想できるものを適当に入れています。
ー これだけのハッシュタグを入れるって、男性ではなかなかいない気がします(笑)。
笠井さん ハッシュタグを入れすぎて、エラーが出たこともありますよ。いくつ入れたらエラーが出るかは忘れたけど、上限があるみたいです。
ー たしかに上限はありそうですね。インスタグラムで、いいね数が伸びた、伸びないというのは気にしますか?
笠井さん 気にしないですね。ただ傾向として、抹茶系は人気なんですよ。海外の人に人気なんだと思います。

ー 海外の人は見ていそうですね。ほかに気づいた点はありますか?
笠井さん 単純な食べものが意外といいねされますね。普段だれでも食べてそうなソフトクリームとか。
ー ソフトクリーム自体に、工夫が凝らしているわけでもなく?
笠井さん うん、普通のソフトクリーム。そこそこキレイに写っていれば、いいねされますね。抹茶ソフトだとさらにいい。あとはネコの形をした食べものとか、動物モチーフは人気ですね。
ー これは東京にあるサカノウエカフェの「にゃんバタートースト」ですね? いいねが1,035件もついていますね。
笠井さん そう、あんこがネコの形になってるんですよ。
ー 抹茶、ソフトクリーム、猫がいいねを得やすいということは、手ごろにいいねを狙うなら、抹茶ソフトですね?
笠井さん かもしれないです、はっははは(笑)。
盛り付けが凝りすぎてもいいねが増えないときもあるし、なかなか予測がつかないし、よくわかんないんですよ。
ー 笠井さんがおすすめする、インスタ映えするカフェはありますか?
笠井さん 長野駅から徒歩20分くらいにある、クレープリー・レ・クロシェットというお店はおすすめです。ガレットやクレープのお店で、開放感があって、窓もあって明るいです。撮影するなら断然窓際ですね。
35mmの単焦点レンズは、食べものを座って撮るのに最高
ー カメラについておうかがいします。愛用しているカメラがこちらですね?
笠井さん いつも使っているのは、Canonの一眼レフ「Canon EOS 6D」で、レンズは単焦点「EF35mm F2 IS USM」を使います。
昔はミラーレスのカメラを使っていたけど、食べものの撮影には、フルサイズで手ぶれ補正がないと厳しいと思ったので、試行錯誤の末にたどり着いたのがこのカメラです。
ー 手ぶれ補正はマストなんですね。持ち歩くのは、一眼レフひとつだけ?
笠井さん 荷物を軽くしたいときは一眼レフだけ。もっと軽くしたいときは、ミラーレス一眼で、マイクロフォーサーズのオリンパス「OLYMPUS OM-D E-M5 Mark II」を使いますね。
ー カメラにはストラップがついていませんね。
笠井さん 邪魔になるからつけてないね。その代わり、しょっちゅう落としてるし傷だらけ(笑)。私の場合、歩きながら街を撮ることもないし、どうせ店に入って食べものを撮るだけだから。ストラップがあると、気づかないときに映り込んじゃうので必要ないんですよ。
ー 食べものは、注文したものが全部揃ってから?
笠井さん いや、まずはこうやって、飲み物単体で撮っちゃいますね。
ー シャッター音が静かですね。
笠井さん 静音モードがあって、シャッター音が変えられるんですよ。それもこのカメラを選んだ理由で、まわりに迷惑がかからないのが良いところ。
大きさで選ぶなら小型のミラーレスもいいけど、フルサイズで、かつシャッター音を小さくするとなると、CanonのEOS一択ですね。

ー 縦のアングルも撮られるんですね。
笠井さん かならず、縦横で1枚ずつ。このレンズの焦点距離は、座って撮るには最高にいいですよ。
ー 笠井さんの写真のなかで、箸やフォークで食べものをすくいあげている写真もありますよね。
笠井さん 右手でフォークを持ちながら、こういう……。この持ち方と、このレンズが持ちやすい。“箸あげ”ってやつですね。
ー なるほど片手でカメラを持って……! 勉強になります(笑)。
笠井さん ライブ感が出るんで。こういうときに、手ぶれ補正もある程度ないと、腕がプルプルしちゃうんですよ。
ー シロップが垂れている写真も、とてもおいしそうですね。

笠井さん メイプルシロップは1回勝負だから、どうやって垂れていくか予測がつかないんですよ。
ー たしかに。メイプルシロップが垂れる位置によって、見た目が変わってきますよね。
笠井さん パンケーキに乗っているバターの上にメイプルシロップを垂らすのか、量はちょっとずつ垂らすのか、撮る前に悩みながら決めていますね。
ー こだわりがすごい! 私からすれば、もうプロですね(笑)。
食べものを撮っているだけなら、写真が趣味とは言えない

ー 写真はいつから詳しくなったんですか?
笠井さん 大学時代に写真部に所属していたので、知識はそこで得ましたね。ただ、陸上部にも入っていて、陸上ばかりやっていたら、写真部は2年ぐらいで除名されちゃったんですよ。
ー 除名(笑)。じゃぁそれからはほとんど独学で?
笠井さん そうですね。
ー 走ることも好きなんですね?
笠井さん いや、好きではない。今は健康維持のためと、マラソン大会に出るために毎日10kmは走っているけどね。
ー 毎日10km……!? じゃぁ趣味というとカメラが?
笠井さん カメラでもないな。撮るものが食べものだけだったら、趣味とは言えない気がする。
ー え、じゃぁ趣味は食べること……?
笠井さん まぁ、そうかな。走って食べて、走って食べての繰り返し。食べるために走っているのか、走るために食べているのかわからないけど。
ー 出かけるときは、食べることが目的で?
笠井さん そんなこともない。マラソン大会に参加した帰りに、どこかに寄って食べに行ったり、都内で歯科医師の会合があったら、ついでにおいしいところに行ったり。人と一緒に行くこともあるけど、ひとりで行ったほうが味に集中できるから、ひとりが好きですね。
ー マラソンの魅力は?
ないです。
毎日走っているけど、マラソンはツラいことしかない
ー え……。
笠井さん マラソンはツラいだけ。ゴールした瞬間の達成感だけですよ。
ー 景色を楽しんだりとか……?
笠井さん ツラすぎて見たくない。
ー とにかく早くゴールしたいということ?
笠井さん 早く終わってほしい。なんでやってるんだろうなって思って走ってます。
ー 走ることが癖になっているとか?
笠井さん 健康維持と、たまには苦しいことをしなきゃいけないかなって思って走ってるね。
学生のときは、テスト、テストの毎日で努力することはあったけど、社会人になってからは、仕事をやっていてもツラいとか悔しいって思うことが少ないので。1年に1度フルマラソンに参加して、罰ゲームを与えているような感覚です。
ー とはいえ、42.195kmも走るわけですよね。
笠井さん そう。足は動かなくなるわ、ツラいことしかない。最後はちょっとだけ歩くときもあるけど。
ー マラソン大会にはどれぐらいの頻度で参加されているんですか?
笠井さん 今はシーズンだから、ハーフも入れて週1か、2週に1度は出てます。日帰りで行けるようなマラソン大会には、全部エントリーしてますよ。先々週も埼玉の「熊谷さくらマラソン」で走ってきました。桜は咲いてないのにさくらマラソン。
ー それは残念。そのときもどこかへ食べに?
笠井さん 「川幅うどん」を食べました。日本一川の幅が広いと言われている、熊谷市のとなりの鴻巣市(こうのすし)で。

ー 走って食べて、健康的な生活ですね。でも基本的には、写真は食べものを撮るだけ?
笠井さん そう。あ、仕事でも撮ってますね。毎日、口内写真を撮ってる。
ー 口内写真(笑)。歯医者さんですもんね。
とにかく治療に過度な期待をしないこと
ー 本業のお話にお戻ししますね。ご家族はみなさん歯医者さんですか?
笠井さん 兄だけ脳神経外科医で、母も父も歯医者です。
ー ご両親が歯医者だと、子どものころに甘いものを食べれなかったりとか?
笠井さん そんなことはないですよ。テーブルに出てこないときは自分で家のなかを探して食べてました。
ー 飴とかも食べていますか?
笠井さん 飴はやめたほうがいい……! 飴ほどよくないものはないね。飴は口のなかに停滞しながら砂糖を供給している状態なんです。砂糖が入っていないものもあるけど、飴よりガムがいいですよ。ガムは唾液で口のなかが流されるから。
ー わかりました、飴はやめます!
笠井さん それとアゴが弱くなるから硬いものを食べなさいっていう風潮があるけど、硬すぎると歯が割れてくるから、よくないんですよ。どの程度の硬さかって聞かれると難しいところがあるんだけど、無理して硬いものを食べる必要はないですね。歯が割れたらどうすることもできないので。
ー ほかに、気をつけることはありますか?
笠井さん とにかく治療に過度な期待をしないこと。日本は歯ブラシの習慣はあるけど、フロスをやってない人が多いので、隙間の手入れをしてきちんと予防をした方がいいですよ。
アメリカでは歯ブラシ並みにフロスが普及していて、高速道路でフロスをしながら事故ったっていうニュースもあったぐらいで。「フロスやりますか?それとも死にますか?」っていう広告もあったんですから。
ー 笑っちゃいけないですが、フロスをしながら交通事故ってすごい話ですね……(笑)。きちんと歯科予防をして、好きなものを好きなだけ食べたいと思います!
取材を終えて

今回取材した@hahahaishyaさんのインスタグラムは、私がカフェ情報の参考にしているアカウントのひとつでした。
ストイックに好きなものをとことん追求した結果、たくさんの人と”いいね”で繋がる。インスタグラムには、知らず知らずのうちにだれかの行動を変える、そんな力があるのかもしれません。
最後に、食べ物をそんなに美しく撮れるなら、花や人もキレイに撮れるんじゃないですか? という問いをなげかけると、
「それは全然違いますよ。私は食べもの以外を美しく撮ろうという気持ちがない。なにを撮るにも被写体への愛がなければ、全部うまく撮れるわけではないんですよ」そう答えた笠井さん。
あなたも、自分のなかの”好き”を届けてみませんか?
暮らしミタ人

笠井宏二
1977年、長野県長野市生まれ。日本大学歯学部卒業後、実家の笠井歯科医院に勤務。冬期間は専門学校の非常勤講師として、歯科衛生士の育成にも携わる。本記事の通り、大の甘党である。
ブログ:歯磨き上手な歯医者の話