Vol. 3

「平左衛門カフェ」築170年の古民家カフェが受け継ぐ、伝統と技術

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新潟県上越市の山あいに佇む、1軒の古民家。
茅ぶきの屋根が印象的なこの古民家は、地域住民やボランティアの方々が約10年の歳月をかけて改装しました。その後、2013年より毎年春から晩秋にかけて営業する「平左衛門(へいざえもん)カフェ」として、新たな風を吹き込んでいます。

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カフェの一押しは、地元の棚田でとれたお米と野菜を使ったカレーライス。なかでも、青唐辛子とスパイスを使ったチキンカレーは、汗もでるほどの本格的な辛さです。

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運営しているのは、NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部。上越市西部の中山間地域で、主に里と山の自然・景観・文化を守る事業活動などを行っています。
今回、平左衛門カフェを担うひとり、春山貴之(はるやまたかゆき)さんにお話しをうかがいました。

地域の人たちの、生きる知恵に魅了された

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ー 春山さんは神奈川県出身とお聞きしましたが、新潟で働くことになったきっかけは?

春山さん 私が自然環境を学ぶ専門学校に通っていたころ、単位を修得するために※1インターンで働く必要があったんです。どこに行くか決められず迷っていたら、先生にここで働いていた先輩を紹介してもらったんですよね。

※1 インターンとは…インターンシップの略称。特定の職の経験を積むために、企業や組織において労働に従事している期間のこと。引用元:wikipedia

ー 最初はインターンでいらっしゃったのですね。

春山さん そうですね。普通なら、登山ガイドや国立公園のレンジャー(自然保護官)とか、そういった仕事に就くことが多いのですが、私は自然保護が嫌いだったので(笑)。

ー それはどうしてですか?

春山さん 専門学校では主に植物調査をやっていたのですが、結局、人間目線は変わらないな、と思っていたんです。自然のことを考えるにも、熊のことを考えるにしても、人間がどうにかなることはない。自然保護と言いつつ、牛や豚も食べる。そう考えると、自分第一で考えるようなやり方じゃないと、納得がいかなくて。

ー 自然保護に対して、矛盾を感じていたんですね。

春山さん この集落は近くに上越市の水源の森があるので、そこの管理もしているんです。それなら自分のためになるし、自然と納得がいったんですよね。実際、ここに来てみたら、地域の人の生き方や、昔ながらに持っている技術や知恵に圧倒されて、今ではすっかり社員として働いています。

往還者(おうかんしゃ)を増やしたい

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ー 平左衛門カフェをオープンするまでは、ずっと空き家だったんですよね。

春山さん はい。人が暮らしていたのは、十何年も前になります。この谷にある古民家は、百何十年って続いてきた建物が多くて、どれも暮らしに役立つ技術がたくさん詰まっているんです。人がいなくなって潰れるだけってなると、せっかくの技術や技能、知恵や文化とか積み上げたものが途切れてしまう。それはただ惜しいだけじゃなく、勿体ないと思うんです。

ー なくなってしまうのは悲しいですよね……。

春山さん ただ、いざ住むとなると、維持費に相当お金がかかるそうなんです。とくに茅ぶきの屋根はもう職人さんがいないし、探すのも大変だと聞いていて。柱も、自然にあるもので作っているんです。そういう技術がある地元の大工さんがいないと、同じようには作れない。「ちょっとここ、崩れてきちゃったな」って思っても、なかなかすぐには直せないんです。

だから空き家に住むこと以外に、他の活用方法を見いだしていかないと、どんどん利用されなくなって、技術も失われてしまう。そう考えると、古民家を保全して維持するだけではなく、地域の資源を使ったカフェや、雑貨屋さんとして古民家を使うことが、次世代に残していくために必要だと考えています。

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ー 古民家を残していくためにカフェとして再生を?

春山さん それだけではないですが、古民家は農村の景観の維持にも役立っているんです。簡単に言うと、見ているだけで心が落ち着くように、自然に溶け込む景観を残していくこともひとつの目的ですね。

ー 最近では地方に移住される方が増えていますが、移住者を増やしたいという考えはありますか?

春山さん 移住者もそうですが、とくに来てほしいのは「往還者(おうかんしゃ)」と言っています。

ー 往還者?

春山さん 街に住んでいても、ここに通って来てくれる人のことです。定住されなくても行き来のある人を増やすことで、今後集落がどんどん活性化していくと思っています。ここに来る理由のひとつに平左衛門カフェがあって、集落の農産物を買ったり、農業のお手伝いをして、村の人たちと繋がりを築いたりして、夜は家に帰る。そんな、年に1回でも集落に通ってくれる、住むだけじゃない村人を増やしていきたいんです。

10年の歳月を経て、生まれ変わった古民家

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2009年、改装中の平左衛門/写真提供:かみえちご山里ファン倶楽部

ー 改装に10年もかかったということは、かなり大変だったでしょうね。

春山さん 私は改装には関わっていないのですが、なかなか手入れができていなかったりして結構大変だったそうです。普通は屋根の上なんて掃除をしないみたいなんですけど、古民家を活用するために、屋根上に板を張ったりもしたんです。

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ー この庭池はもとからあったのですか?

春山さん いえ、庭池も改装のときに新しく作ったものです。

ー 昔からあったように馴染んでいますね。

春山さん 当時はまだ地元の左官屋さんや大工さんがいたので。茅ぶき屋根の他に、水車の作り方も教わったんですよ。ただ残念ながら、教わった何ヶ月後かにその方が亡くなられて……。
昔はこの集落だけで衣食住が成り立っていたそうなんです。今は無理だと思いますけど、そうしないと自然の中で生きていけなかったんですよね。

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ー 茅ぶき屋根や、水車の技能は現代には必要がないことのように思えてしまうのですが、後世に残していく意味はどこにあると思いますか?

春山さん 私も日々、自問自答していますよ。今の社会には必要ないかもしれない。でも、自然にあるもので作ることに意味があるとも思っています。もし地震や災害でライフラインが途絶えた時に、機械に頼らなくても家を建てられることはきっと役立つと思うし、今生きている職人の方がいなくなってしまったら、そこで技術が消えてなくなってしまう。たとえ現代ですぐに使える技術でなかったとしても、私たちが後世に受け継いでいかなくては、という思いがあります。

取材を終えて

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築170年の平左衛門カフェは、山々にかこまれた自然豊かな場所で、訪れる人の心をそっと癒やしています。その美しさの裏には、たくさんの人の努力や支えがあることを知りました。

私たちのほとんどは、供給されたガスや水道に頼り、お金を払って家を建ててもらい生活をしています。一方で、平左衛門カフェの成り立ちのように、自然にあるもので、昔ながらの生活の知恵を活かして生活することもできます。

自然にあるものか、便利なものに頼るか、そのどちらも選ぶことができる時代。あなたはどちらを選んで生きていきますか?

暮らしミタ人

春山 貴之さん

春山 貴之さん

1985年生まれ、神奈川県相模原市出身。 京都精華大学卒業後、自然環境を学ぶ専門学校に通ったのち、インターンでNPO法人かみえちご山里ファン倶楽部に関わる。現在は平左衛門カフェの運営を担当している。

Writer

五十川 ルリ子
この記事を書いた人
五十川 ルリ子

新潟県在住。食べることやカフェめぐりが大好き。自ら足を運んで惚れ込んだお店や、魅力ある人へ取材をしています。

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