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ひと息ついてもらえる場所でありたい。20年以上続く「Go’s cafe」の揺るがないコンセプト

ここは新潟県上越市。商店街から1本入ったところに、赤いレンガ壁が目印の「Go’s café(ゴーズカフェ)」があります。

2階建ての1階は、ヨーロッパで買い付けた雑貨をはじめとする、洋服、陶器などを扱うセレクトショップ。

そして2階のカフェでは、珈琲やケーキのほかに、約8時間煮込んだビーフカレーをいただけます。

一見シンプルなカレーですが、具材がしっかり溶け込んだルーは絶妙な甘さと辛さ。口に入れた瞬間スパイスの香りが広がり、一体どんな調合を施しているのか、想像を掻き立てられます。

矢澤剛さん・昇子さん

そんなGo’s caféを営むのは、矢澤さんご夫妻。ビーフカレーをいただきながら、これまでの歩みと今後の展望についてうかがいました。

古きと新しきの調和をコンセプトにした、ショップ&カフェ

— とても雰囲気があるお店ですね。いつごろオープンされたんですか?

剛(つよし)さん 1983年からなので、今年で34年目になります。最初のころはセレクトショップだけをやっていたんですけど、少しずつ気持ちに余裕が出てきて、2階でカフェを始めたのが10年後の93年。カフェだけでいうと今年で24年目ですね。

ー それはずいぶんと長いですね。セレクトショップではどのようなものを取り扱っているんですか?

剛さん 最近はヨーロッパで買い付けたもの以外に、日本の陶芸作家さんの器も置いていますね。古きと新しきが調和することをコンセプトに、ヨーロッパのアンティークと、メイド・イン・ジャパンを私たちなりに工夫しながら取り入れています。

ー どうしてヨーロッパにこだわりが?

剛さん イギリスが好きで、イギリス人になりたかったんです。

ー イギリス人……?

昇子(しょうこ)さん 飛躍しすぎですよね(笑)。

ー イギリス人になりたいと思ったきっかけは?

剛さん 子どものころですね。イギリスの音楽や車を好きになったのがきっかけです。

剛さん 普通は店を開くとしたら、内装ができてからテーブルや食器などを用意していくでしょう。
でも私は、イギリスで一目惚れしたステンドグラスのドアに出会って、このドアに合わせて入り口を作ろうとか、このカウンターがあるからレジにカウンターを作ろうとか、物から想像をめぐらせて店を作っていったんです。

ー それだけこのお店には、剛さんの好きがたくさん詰まっているんですね。

経験ゼロから始めた、カフェ経営

ー セレクトショップだけでなく、カフェを始められた理由は?

剛さん 当時から衣食住を提案したかった、ただそれだけなんです。ショップで衣と住はできていたので、あとは食だけだなと。

ー 料理や接客の分担はされているんですか?

昇子さん 料理はほとんど私が用意していますね。夫は細かい作業が苦手なので(笑)。

ー 昇子さんは過去に飲食店のご経験が?

昇子さん いいえ。私は学生時代に経験した喫茶店のアルバイトぐらいで、一から料理を提供するのは初めてでした。

ー 経験ゼロから始めて、不安はなかったですか?

昇子さん 不安はありましたよ。経験もないのにお店をやっていいのかなって、ずっと自信がなかったんです。
それでもお客さんが「おいしい」って言ってくれるから、そのひと言が支えや励みになって、ここまで続けることができました。

ー ビーフカレー、とてもおいしかったですよ。具材が溶け込んでいるので、何が入っているかお聞きしてもいいですか?

昇子さん ビーフカレーは、牛肉と玉ねぎ、トマト、りんごのすりおろし、あとは数種類のスパイスを入れて8時間ほど煮込んでいます。トッピングのゆで卵はビタミンEが豊富な養生卵を使っているんですよ。

ー 卵にもこだわりがあったんですね。カレーのレシピはどのように生み出していったんですか?

昇子さん 色んなレシピを参考にしながら、試作を繰り返してこの味になりました。カフェをオープンしたころは珈琲と紅茶、ケーキの軽食だけだったんですけど、お客さんから「食事があったらいいのに」と要望があって、ビーフカレーやドライカレーを始めたんですよね。

ひと息ついてもらえる場所としてありたい

ー お客さんの声がきっかけで、食事を出すようになったんですね。

昇子さん そうですね。一時、お客さんの要望でパスタなどの日替わりランチをやっていたこともあったんです。
けれど食事を出すためにお店を始めたわけじゃないのに、とても忙しくなってしまって。私が思い描いていたことから段々とかけ離れてきたと感じるようになったんです。

ー はじめに思い描いていたこととは、どんなことだったんですか?

昇子さん 短い時間でもいいから、おいしい珈琲や紅茶を飲みながら、ひと息ついてもらう。それが第一なんです。
Go’s cafeは私たちにとっても居心地がいい場所だから、同じようにくつろいでいただきたくて。

ー そう言ってもらえると、お客さんは嬉しいですね。ただ、地方では都心に比べてカフェや外食に行く頻度が少ないように感じますが、お店を続けるのは難しくなかったですか?

昇子さん たしかに難しい部分はありましたね。最近は手軽に食事を済ませられる、ファーストフードのお店が増えて、ご年配の方が気軽に行ける喫茶店が少なくなっているんです。昔はお茶を飲むだけの場所っていうのがもっとたくさんあったんですよね。

ー 昔ながらの喫茶店はあまり見かけなくなりましたよね。

剛さん カフェや喫茶店の需要がないわけではないんですよ。長年やっていた喫茶店を閉めてしまう店が多くなって、次の世代に繋げられなかったことに問題があると思っています。

ー 20年以上もカフェをやってきて、もうだめかなというピンチの瞬間はありませんでしたか?

昇子さん いつもですよ(笑)。今日はどれだけお客さんがいらっしゃるか、明日どうなるかも全然読めないんです。天気に応じてかといえば、そうでもないし。だからいつも危機感を持ちながら、商売って難しいなと痛感していて。

ー それでもここまで続けてこられた秘訣は?

昇子さん やっぱりお客さんしかいないです。お店を閉めようって言うのは簡単ですよね。でも、ひとりでもお客さんが来てくれて「また来ます」って言ってもらえることが支えで、明日もがんばれると思いながらやっています。

ー 小さな積み重ねでここまでやってこられたんですね。
これから何かやっていきたいことはありますか?

昇子さん お店のインスタグラムやFacebookを始めたので、自分たちで情報発信をしていきたいと思っています。投稿するときにハッシュタグをつけるように心がけたり、写真を投稿してくださる方にコメントを返したり、まだまだ手探りですけど。

ー お店をやりながら発信するというのはきっと大変ですよね。剛さんは何か展望はありますか?

剛さん バスク人になりたいですね。

ー 今度はバスク人(笑)?

剛さん 最近はイギリスからバスク地方に興味が移ってきているんですよ。バスクというのは、フランスとスペインをまたがる場所にあるんです。それを話すと長くなってしまうんですが、サッカーに所以がありましてね。

ー サッカーですか。

剛さん レアル・マドリードや、バルセロナというチームの名前は聞いたことがありますよね? でも私はバスク州・ビルバオに拠点を置くアスレティック・ビルバオというチームが好きで。

ー アスレティック・ビルバオ。すみません、初めて聞きました……。

剛さん レアル・マドリードやバルセロナは世界の名だたる選手を集めていますが、アスレティック・ビルバオは、バスク人だけで構成されたチームなんです。
歴史あるスペインリーグで未だ、1部リーグから2部リーグに落ちたことがないのは、レアル・マドリードとバルセロナ、そしてこのアスレティック・ビルバオの3チームだけなんですよ。これだけグローバル化されている世の中で、バスク人だけで選手を育成して、世界の第一線で戦っているということは凄いことだと思うんです。

ー いきなりサッカーの深い話になってきましたね(笑)。

剛さん ほかにもバスクは美食の聖地といわれるサンセバスチャンという街もあるし、ベレー帽や、ボーダーシャツもバスク発祥で、彼らが世界に生み出してきたものが多くあるんです。
私はその土地に興味を持ち始めると、その人たちがどのような生活をしているのか、深く追求したくなるんですよね。

衣食住を扱う商売は、自分たちのコンセプトをしっかり持たないといけない

ー これまでバスクに行かれたことは?

剛さん まだないんですよ。最終的にはお店もバスクの文化を取り込んでいきたいと思っています。バスクに行かなくても、日本に入ってきている物もあるので、いずれ取り寄せてGo’s風にアレンジしていきたいですね。

ー 剛さんはお店に置く商品や空間デザインを担当されているんですね。

剛さん というより、私は表に出ちゃいけないんです。

ー どうしてですか?

剛さん あまり前に出たくないので(笑)。ファッション的な販売員のように、話しかけて接客するようなこともしたくないんですよ。

ー たしかにお店の方からあまりぐいぐい話しかけられても、困る時がありますよね。

剛さん そうでしょう? 昔は今より洋服を多く取り扱っていたんですけど、最近はお店に置きたいと思える洋服が見つからないのが悩みなんですよね。陶器にしても、いくら名前のある作家さんでも、私にとってその良さがわからなければ絶対に扱うことはないし、本当に惚れ込んだものじゃないとやりたくないんです。

ー そのスタンスは素敵だと思います。

剛さん 流行を意識していないわけじゃないですが、それに流されることはなく、本当に好きなものを提案していきたいんです。衣食住を扱う商売は、どれかひとつでも崩れるとだめになるので、自分たちのコンセプトをしっかり持たないといけないんですよね。お客さんが、私たちが選ぶものに共感してくだされば嬉しいなと考えているんです。

ー イギリス、バスクと海外にとても影響を受けていますが、Go’s cafeの名前の由来は?

剛さん 私の名前からですよ。剛(つよし)を音読みで。

ー そこはヨーロッパとは絡めなかったんですね。

剛さん そのときは考えていなかったですね(笑)。

取材を終えて

Go’s caféは20年という長きにわたり、決してお客さんに媚びることなく、ただひたむきに営まれてきました。

セレクトショップとカフェ両方のバランスを考えながら、誰よりも自分たちが楽しむ気持ちを大切にしてきたからこそ、今の形があります。

「まだまだ完成ではない」そう言っていたおふたりの言葉を聞いて、これからのGo’s caféの変化がとても楽しみになりました。

暮らしミタ人

矢澤剛さん

新潟県上越市出身。好きな食べものはチョコレート。

矢澤昇子さん

新潟県上越市出身。仕事終わりのビールが日課。

Writer

五十川 ルリ子
この記事を書いた人
五十川 ルリ子

新潟県在住。食べることやカフェめぐりが大好き。自ら足を運んで惚れ込んだお店や、魅力ある人へ取材をしています。

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