Vol. 2

夫婦で営む雑穀レストラン「Coffee&Lunch Kinta」。ふたりが見つけた本当の幸せ

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新潟県長岡市の寺泊地区は、日本海に面した漁業が盛んな地域。
そんな寺泊の海沿いに車を走らせていると、青色の建物の雑穀レストラン、「Coffee&Lunch Kinta」が見えます。

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2005年4月にオープンし、今年で12年目を迎えるこのお店。
営んでいるのは宮一之(みやかずゆき)さん・裕子(ひろこ)さんご夫妻です。

この日いただいたランチは、雑穀のたかきびに、レンコンと玉ねぎ、人参をつなぎにした「たかきびハンバーグ」のプレート。見た目や食感がお肉そのもので、ヘルシーながら満足感もあります。

おいしいお料理をいただきながら、なぜおふたりが米どころ新潟で、雑穀をメインにしたお店を始められたのか、その経緯や想いをうかがいました。

海が見える場所で、第二の人生を始めようと思った

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宮裕子さん(左)・一之さん(右)ご夫妻

ー こちらは素敵な眺めですね。2階はご自宅ですか?

裕子さん ううん。自宅はここから車で50分の見附市なの。2階は倉庫として使っているのよ。

ー どうしてお店を開くことにしたのですか?

裕子さん 私たち30年以上、会社員として勤めていたんだけど、子育ても終わって第二の人生をやっていこうって話していたの。夫も私も海が好きでよく遊びに来ていたから、海の見えるところにお店を開こうと思って。

一之さん 俺の50歳の誕生日を記念に会社を辞めて、その1ヶ月後にこの物件を買ったんだ。会社で働いていたころは、朝起きると仕事に行きたくねぇなぁって思ってたんだよ。お金は入ってくるけど、忙しさに追われていた。

裕子さん 今は楽しい。お客さんにおいしい料理を作って、「おいしいです、ありがとう」って言ってもらえるだけで幸せなの。

米どころ新潟で、雑穀に対するイメージを変えた

お店で扱っている雑穀の粒

ー はじめから雑穀レストランを営むことを決めていたのですか?

一之さん 明確には決まっていなかった。この辺りは海が近いから魚料理のお店が多くて。だからって経験もない私たちが同じようなことをしても、張り合えるわけがないしさ。

裕子さん 私は会社を辞めてから調理学校に通ったんです。そこで※1黒米(くろまい)を使ってから、雑穀に興味を持つようになって。

※1 黒米:雑穀の一種。白米と比べて、食物繊維、鉄分、マグネシウム、などの栄養素に富んでいる。引用:日本雑穀協会

一之さん だけど、うちは農家だったから、白米に雑穀を混ぜることが理解できなかった。

裕子さん おいしいお米があるのに、「雑穀を入れてまずくしてどうするんだ!」って言われましたね。お米ができる新潟では、雑穀はタブーみたいなもの。貧しい食べ物のイメージがあったんです。それでも、白米と雑穀の配合をひたすら試行錯誤していたら、半年ぐらいかかって夫がようやくおいしいと言ってくれて。

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一之さん それに雑穀は栄養価があるってことを知ってね。そこで健康をキーワードに、雑穀料理をやってみようかと考えたんだ。ふたりで雑穀エキスパートの試験を受けて、資格もとったんだよね。

裕子さん それでいざオープンしたら、めずらしいお店ができたと新聞やテレビで話題になって。雑穀はミネラルが豊富だとか、お店に来られるお客さんに詳しく説明するところから始めていきました。

お客様一人ひとりのことを考えて作りたい

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ー 飲食店で働いた経験はそれまで全くなかったのですか?

裕子さん 会社を退職後に調理学校を卒業して、知的障害者施設の厨房で1年間だけ働いていました。

ー どうして施設の厨房に?

裕子さん チェーン店のような味が均一なところじゃなくて、なるべく食に気をつかっている場所で働きたいと思っていたの。でも実際は、想像とはまるで違った機械的な作業だった。予算がないから仕方がないんでしょうけど、新鮮な食材を使って丁寧に調理することからは、ほど遠いものでした。そこでの経験は涙がでるくらい苦しかったんです。

ー 思い描いていたものとは大きく違ったんですね。

裕子さん だからこのお店では、厨房からお客さんの顔を見られるようにしているんです。お客さんが若い人かお年寄りかで、お味噌汁の塩加減を調整したり。ご飯の量も、お年寄りの方には10グラム減らしてお出しするの。

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ー お客さんに合わせてお料理の塩分や量を変えているのですか?

裕子さん そうなんです。お年寄りの方だと、残すのはもったいなくて食べてくださるんですよ。でも、無理してたくさん食べるとおいしくないでしょう? たった10グラムでも減らすと、「おいしいね」と言って食べてくれて。料理をロボットみたいに作って出すっていうのとは違う。私がしたかったのは、そういうことだったんです。

新潟県中越沖地震が変えたこと

ー ここは海が近いので、海水浴客も多いですか?

一之さん 昔は多かったね。私たちもランチの営業が終わったら、ビーチハウスで夕方までビールを飲んだりしてね。

裕子さん 5年ぐらい、そんな働き方をしていたよね。

一之さん 2007年の新潟県中越沖地震があってから、一気に海離れが加速したんだよ。風評被害を食い止めるために、県知事さんや市長さんが近くの魚市場で浜焼きを食べて、テレビで安全をアピールしていたんだけど。

日本海を望むテラス席

裕子さん 前は夜になってもお客さんが来てくれたけど、最近は魚市場が早く閉まるから、うちも早く閉めるようになって。もう還暦を過ぎたし、店じまいになる覚悟をしておかないとだめかなって。

ー 切ないですね……。

裕子さん それでも何かお店で協力できることはないかって、エコを心がけたりもしました。地震があった年は、水や洗剤をできるだけ使わないようにワンプレートにしたんです。その翌年は、割り箸をやめて、洗う箸に変えて。3年目は外の電光掲示板を全部撤去しました。そうしたら夜、真っ暗になっちゃって(笑)。4年目はお客さんに出す紙おしぼりを3分の1の大きさのもの変えたんです。

一之さん エコでありながら、経費削減も図れたってわけさ(笑)。

身の丈にあった生活で見つけた、本当の幸せ

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ー それでも10年以上もお店が続いたのはすごいですね。

裕子さん 楽しみながらやっているからね。これを稼ごうと思ってやっていたら、顔色変わってくると思う。会社で働いていたころに比べて、今は身の丈にあった生活をしているから、前よりずっと幸福感があるのよ

一之さん 収入がそこそこだと、それに合わせた食べ方、飲み方をするからそれでいいと思うんだよ。俺たちが子どものころは、化学調味料は使わなかったし、農家もお金がかかるから農薬を使わなかった。味噌は自家製だったし、今思うとそういう食生活が贅沢なんだよね。

裕子さん 前は何も考えないで買い物をして、食べ物もバクバク食べていたのよ。今はおいしいお肉を少ない量で分けあって、ふたりで「この肉バカうまいね!」なんて言いながら食べるの。

一之さん でも俺は時々、ステーキ屋の肉も食べたくなるけどね(笑)。

第三の人生も楽しく暮らしていきたい

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裕子さん お店をオープンしてすぐに夫の父が脳梗塞で倒れて、すごく大変だったんですよ。ベットの上で10年、20年生きてたって、何もできないでしょう? 楽しく生きていくために、まず健康でいることが第一だと思っているの。

一之さん 60歳になったら、第三の人生はシルクロードに100日間行こうと思っていたんだ。でもいざとなると、歩く元気もねぇしな。

裕子さん 歩けないでしょ? テロも怖いしそれは諦めて、ご褒美は先送りにしたの。

一之さん 1ヶ月くらい、お店を休んで旅行に行ければいいね。

裕子さん 旅行中にお金がなくなったらどうするのって夫に聞いたら、「お前がどっかの店の厨房でバイトすればいい」って、「俺は、その店で一杯飲んでるわ」ってすごいこと言うのよ(笑)。
私たち死ぬまで元気でいたいから、人生そうやって楽しんでいかないとね。今健康でいられるのも、お店をやったご褒美だったって思っているわ。

取材を終えて

平日の雑穀ランチに付いているデザート・黒米のおしるこ

お話しをうかがっていると、おふたりがお互いの健康を気づかい、一緒に生きることを楽しんでいらっしゃるように感じました。

私たちは日々たくさんのものにお金を消費しています。でも、それは本当に必要なものでしょうか? なければ生きていけないと、思い込んではいないでしょうか?
宮一之さん・裕子さんが教えてくれたことは、自分の”足るを知る”ということだと思います。身近なものと人を大切にして、日々の幸せを噛みしめながら生きることが、本当の幸せなのではないでしょうか。

暮らしミタ人

宮 一之さん

1953年生まれ、新潟県見附市出身。長岡市内の高校を卒業後、農業団体(土地改良)に勤務していた。趣味は休日に街へ昼飲みに出かけること。

宮 裕子さん

1953年生まれ、新潟県長岡市出身。長岡市内の高校を卒業後、保険会社に勤務していた。趣味は晩酌の肴をつくること。

Writer

五十川 ルリ子
この記事を書いた人
五十川 ルリ子

新潟県在住。食べることやカフェめぐりが大好き。自ら足を運んで惚れ込んだお店や、魅力ある人へ取材をしています。

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